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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和43年(う)186号 判決

被告人 高木孝一 外八名

主文

1、原判決を破棄する。

2、被告人高木孝一を懲役六月に

被告人増永健・同杉本杉市を各懲役四月に

被告人芝田竹次郎・同藤堂作衛・同田中傳・同藤野源治郎・同多田清志を各懲役三月に

被告人田中作太夫を懲役二月に

それぞれ処する。

3、ただし、本裁判確定の日から

被告人高木孝一に対し三年間

その余の各被告人に対し各二年間

それぞれ同被告人等に対する右各本刑の執行を猶予する。

4、被告人高木孝一・同田中傳から各金一〇万円を

被告人藤堂作衛から金八万円を

被告人杉本杉市から金一五万円を

被告人多田清志から金五万円を

それぞれ追徴する。

5、訴訟費用中

原審証人山本治に支給した分は被告人九名の負担とし

原審証人飯田彦太郎・同小林朴・同辻広善作に支給した分は被告人芝田竹次郎の負担とし

当審弁護人中村吉輝に支給した分は被告人藤野源次郎の負担とする。

6、本件公訴事実中被告人芝田竹次郎が被告人増永健より昭和四一年六月上旬頃福井市東宝永町二の一一五福井県議会議長公舎において現金五万円の供与を受けたとの点については、被告人芝田竹次郎は無罪。

理由

本件各控訴の趣意は、福井地方検察庁検察官鈴木信男の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

検察官の控訴趣意中事実誤認の主張について、

所論は要するに原審の取調べた各被告人等の検察官に対する供述調書は信用できるものであり、これ等によれば各被告人間に授受された本件公訴事実記載の各金員は、何れも福井県議会(以下県会と略称する)本会議における副議長選挙に際し投票を依頼する旨の請託をなし、又はこれを受ける趣旨の下に授受されたものと認めることができるのに、同趣旨の自白をした各被告人等の検察官に対する各供述調書は信用できないとし、本件各金員の授受は専ら県会自由民主党(以下県会自民党と略称する)内における副議長候補者選定(以下党内選挙と略称する)に際しての投票を依頼する旨の請託に関するものであると認定し、被告人等の右金員の授受は県会議員の職務と関連性がなく、被告人等の職務に関してなされたものでないとして、被告人等に対し無罪を言渡した原判決は、証拠の価値判断ないし採証の法則を誤つたために事実を誤認したもので、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れないというにある。

よつて審案するに、原審において取調べた被告人等の検察官に対する各供述調書を事実毎にそれぞれ綜合すれば、本件公訴事実第一の二の2・第七の二に該当する事実関係の中で被告人高木から被告人藤堂に対し昭和四一年六月中旬頃供与された現金は五万円ではなく三万円と認められ、同公訴事実第三の一・第五の二に該当する事実関係の中で、被告人増永から被告人芝田に対し手交した五万円については、右両名間に供与、受領の関係が成立したものでなく、被告人芝田においてこれを受領する意思がなかつたと認められる外は、何れも本件各公訴事実記載の各日時場所において被告人等の間で、それぞれ同記載の現金が授受されたことを認めることができる。

そこで、右金員授受の趣旨について検討してみるに、被告人等の検察官に対する各供述調書は、その中金員の授受そのものを全く否認するもの、又はその趣旨を副議長問題と全く関係がないとする措信し難いものは論外とし、これを党内における候補者選定の際の支持の対価であるとする被告人藤野の昭和四一年一一月二四日附の調書を除けば、その何れもが、同年六月二八日行われた県会本会議における副議長選挙に際し、特定の候補者への投票に対する謝礼として依頼者、承諾者間に授受されたことをもつてその内容としていることを認めるに充分である。

原判決が県会本会議の副議長選挙における投票依頼か、候補者決定のための党内選挙における投票依頼に関するものであるか、判然としないとして列挙している被告人高木の昭和四一年一〇月二九日付・同年一一月一六日付・同年同月一七日付・同年同月二三日付・被告人増永の同年一〇月七日付・同年同月一五日付・被告人芝田の同年一〇月三日付・同年同月一三日付・被告人田中作太夫の同年一〇月六日付・被告人藤野の同年一一月一一日付の検察官に対する各供述調書も、その記載内容自体を観察すれば、何れも「副議長選挙における投票を依頼し又は依頼された」という趣旨に帰着するものであり、県会自民党の副議長候補推せんのための党内選挙そのもののみを指すものとは到底読み取ることができない。

そこで進んで右被告人等の検察官に対する各供述調書の金員授受の趣旨に関する記載の信憑性について検討するに、原判決がこれ等の調書中金員授受の趣旨に関する記載を信用できないとした理由は

(A)、被告人等の右供述調書は、時には県会本会議における投票依頼であると言い、時には党内選挙における投票依頼であると言い、時にはその双方の依頼であると言い、又或るものはその何れの依頼であるか不明であるとし、その供述は同一被告人であつても前後に変動があると共に、被告人相互間の供述にも矛盾があり、

(B)、県会自民党内では従来県会議長、副議長就任を希望する者が多数ある場合には、まず党内選挙により各候補者を一人宛選定し、こうして選定された特定の候補者に対しては、同党所属議員は全員こぞつて県会本会議で投票することになつているのであるから、議長・副議長就任希望者は、その目的達成のためには、先づ党より候補者に推せんされることを必須の前提条件とし、これに最大の努力を傾注するものであり、このような手続をとらず、直接県会本会議における自己への投票を他人に依頼するようなことは、特段の事情がない限り、政党所属員の行為として考えることができず、本件においてはかかる特段の事情がないので、本件金員の授受は、党内選挙における投票依頼の趣旨でなされたものと認められるのに、これを直接本会議選挙における投票に対する報酬である如く記載されている検察官作成の前記各供述調書は、事案の真相が記載されているものとは認め難い。

というのである。しかしながら

(A)、については、原判決が本会議における投票に関するものか党内選挙に関するものか不明であるとして列挙する被告人等の検察官に対する各供述調書は、総て本会議における投票の依頼を指すものと認められることは前叙のとおりであり、これ等の供述は総て県会本会議の選挙における投票依頼の前提として、党内選挙における支持依頼をもその内容とすること勿論であつて、この両者をその内容とする限り、被告人等の右各供述調書中の表現に若干の変化があるとしても、その実質的な内容には、供述の信用性が否定される様な変動、矛盾は全く存しない。

(B)、についても以下のべる理由により原判決は事案の真相把握を誤つたものであるというの他はない。

即ち

(イ)、(証拠略)によれば県会自民党推せんの議長又は副議長候補者は従来党執行部又は党内実力者の仲介又は調整により各一人にしぼられることが多く、これを党内選挙により決定した事例は少かつたこと、

(ロ)、(証拠略)によれば、県会では従来多数党から推せんを受けた議長・副議長候補者は本会議選挙において常に当選するものとは限られず、同党の一部の議員がその党の決定に従つた投票をしなかつたために同党の推せんした候補者が落選した事例もあり、又落選する迄には至らなかつたが多数党の一部の議員が本会議選挙において同党の推せんした候補者以外の者に投票したり又は投票を棄権した事例があつたこと、

(ハ)、(証拠略)によれば、多数党から議長又は副議長候補に推せんされても、本会議における投票結果が判明するまでは、その当選は不確定であり、候補者たりし者の実感としては、安心することができない状況であつたこと、

(ニ)、(証拠略)によれば、被告人高木は本件金員供与当時副議長対立就任希望者であつた被告人増永が党議を無視してでも本会議において決戦投票を試みることを心配していた状況があつたこと、

(ホ)、(証拠略)によれば、被告人高木に対立して立候補しようとしていた被告人増永は、党議を無視してでも県会本会議における副議長選挙に立候補しようとし、同選挙においては県会自民党内の支持者、自民党県政刷新議員連盟、社会党および民社党所属議員等の支持を受け勝算ありと考えていたこと、

(ヘ)、(証拠略)によれば、本件副議長選挙が行われた昭和四一年六月二八日午前一時過まで自民党県政刷新議員連盟・社会党および民社党所属議員等は、いつでも議場にて投票できる態勢で待機していたが、同議員等は被告人増永が副議長に立候補することを断念した旨の報告を受け、本件副議長選挙には投票権を放棄して退席したものであること、

(ト)、本件においては結局党内投票が行われなかつたのであるから、授受された金員が真実党内投票のみを依頼する趣旨のものであつたとすれば、依頼の対象の存在を失つたことに帰着し、被告人等の中には請託された行為の履行が不能に帰したとして、人間的な信義感から受領金を返還する者があつても当然であるのに、かかる趣旨の下にこれを返還したものが全くなかつたこと、

がそれぞれ認められ

以上によれば、本会議における投票を依頼し又は依頼されたとする被告人等の検察官に対する供述調書は、決して実状から遊離したものではなく、むしろ実情に即したものであるとみるのが相当であり、右本会議における投票依頼の中には、これと一体をなすものとして、依頼者が副議長に当選できる様に全面的な支持をして貰いたい旨の依頼が当然包含されており、具体的には党内においてなす副議長候補者の選衡の際や党内選挙が行われる場合等にも支持して貰いたい旨の趣旨が当然内在していたと解せられ、この様に解することにより本件金員の授受について、前記(イ)乃至(ト)の各状況を矛盾なく理解することができる。

右解釈は単に被告人等の意思を憶測するものではなく、この趣旨については、現に被告人増永は昭和四一年一〇月二七日附・同年一一月一五日附の、被告人芝田は同年一〇月二〇日附の、被告人田中作太夫は同年一〇月一三日附の各検察官に対する供述調書中において明らかに供述しているところであり、その余の被告人の検察官に対する供述調書の記載をみても、例えば被告人藤堂は「高木が頼むといつたのは高木に支持及び投票をしてくれと頼んでいることがわかつた」旨・被告人田中傳は「自民党が分裂し増永が立候補しそうな勢で二人で本会議で争う勢であつたので高木は私を最後まで支持者として本会議で投票して貰いたいから金をくれたと思つた」旨・被告人藤野は被告人高木から被告人田中傳に供与する金員を預つた際に田中は大丈夫かと心配そうに尋ねられたので、同人も高木を支持してくれて投票してくれるのに間違いないと思うと答えた旨、被告人多田は被告人増永より今度副議長になりたいので新政会をお前から頼むと依頼された旨等、県会本会議における投票依頼のみではなく、被告人高木又は同増永がそれぞれ副議長に就任できる様に支持して貰いたい旨の概括的依頼も含まれていたことを推認させる記載が諸所にみられる。

そうであるとすれば、被告人等の検察官に対する各供述調書は実情から飛躍しているとして、これが信憑性を否定した原判決は証拠の評価を誤つたものであるというの他はない。

尚被告人等は、その検察官に対する各供述調書は拘禁等により強制されてなした供述であつて信用できないというが、各被告人の身柄拘束期間も事案の罪数・内容・自白に至つた経過等に照らして不当に長期に亘つたものとは認められないと共に、その自白に至る過程にも不自然はなく、その記載内容並びに形式に照らしても、これが強制によつて作成された不真実の記載がなされているものとは認められない。ことに(証拠略)よれば、同被告人等は何れも身柄釈放後に検察官に対し身柄拘束中になした供述中の金品授受の趣旨について間違いがない旨確認しており、又当審取調べの(証拠略)によれば、同被告人は裁判官に対し本件公訴事実の一部について本件金員供与の趣旨が本選挙における投票依頼をも含む旨の自白をしていることがそれぞれ認められ、これ等の状況に徴しても被告人等の検察官に対する供述調書中の記載は任意になされたものであると推認することができる。

右認定に反する被告人等の原審並びに当審における供述並びに被告人藤野の昭和四一年一一月二四日附検察官に対する供述調書中の本件金員授受の趣旨は専ら党内選挙に関するものであつたとの主張は、何れも、それ以前になした同被告人等の検察官に対する供述と矛盾するものであると共に、その供述内容自体にも吾人の経験則に照らして納得し難いものがあり、原審並びに当審取調べの証拠によつて認められる諸状況とも矛盾するものであつて措信できない。

他に右認定を否定するに足りる信用すべき証拠資料は認められない。

結局被告人等の(証拠略)を各事実毎に綜合すれば、本件金員の授受は県会本会議における副議長選挙に投票して貰いたい旨の請託又は受託することをも含めた謝礼としてなされたと認めるに充分である。

そうであるとすれば、被告人等の検察官に対する各供述調書は信用できないとしてこれらを排斥し、被告人等に全部無罪を言渡した原判決は採証法則を誤りひいては事実を誤認したものであつて、その誤認は判決の結果に影響を及ぼすことは明らかであるから論旨は理由があり、検察官のその余の主張について判断するまでもなく原判決は破棄を免れない。

よつて本件控訴はその理由があるので刑訴法三九七条一項・三八二条により原判決を破棄することとし、同法四〇〇条但し書を適用して当審において更に判決する。

(罪となるべき事実)

被告人らはいずれも福井県議会議員であつて昭和四一年六月二八日に行なわれた福井県議会副議長選挙に際し同副議長を選挙する職務を有していたものであり、かつ、被告人高木、同増永は右副議長選挙に当選したいと考えていたものであるが、

第一、被告人高木は、

一、被告人芝田に対し、昭和四一年五月二三日福井市足羽町一の一一料亭清風こと荒井信子方において、右副議長選挙の際は自己に投票されたい旨の請託をなし、その報酬として現金五万円を供与し、

二、被告人藤堂に対し、

1、同年六月上旬ころ福井市御本丸町一〇一福井県議会議事堂において、右同様の請託をなし、その報酬として現金五万円を供与し、

2、同年六月中旬ころ、右同所において右同様の請託をなし、その報酬として現金三万円を供与し、

三、被告人田中傳に対し、同年六月上旬ころ、右同所において、右同様の請託をなし、その報酬として現金五万円を供与し、

四、被告人杉本に対し、同年六月上旬ころ、右同所において、右同様の請託をなし、その報酬として現金五万円を供与し、

もつて被告人芝田、同藤堂、同田中傳、同杉本の前記職務に関して贈賄し、

第二、

一、被告人高木、同芝田は共謀のうえ、被告人田中作太夫に対し、同年五月二三日前記料亭清風において、右同様の請託をなし、その報酬として現金五万円を供与し、

二、被告人高木、同藤野は共謀のうえ、

1、被告人田中傳に対し同年六月二〇日ころ前記議事堂において右同様の請託をなし、その報酬として現金五万円を供与し、

2、被告人杉本に対し同年六月二〇日過ころ、右同所において右同様の請託をなし、その報酬として現金五万円を供与し、

もつて被告人田中作太夫、同田中傳、同杉本の前記職務に関して贈賄し、

第三、被告人増永は、

一、被告人芝田に対し同年六月上旬ころ福井市東宝永町二の一一五、福井県議会議長公舎において、前記副議長選挙の際は自己に投票されたい旨の請託をなし、その報酬として現金五万円の供与の申込みをなし、もつて被告人芝田の前記職務に関して賄賂の申込をなし、

二、被告人多田に対し、同年六月上旬ころ福井市西松本町一の七二八自宅において右同様の請託をなし、その報酬として現金五万円を供与し、もつて被告人多田の前記職務に関して贈賄し、

第四、被告人増永、同多田は共謀のうえ、被告人杉本に対し同年六月上旬ころ前記議事堂において、右同様の請託をなし、その報酬として現金五万円を供与し、もつて同人の前記職務に関して贈賄し、

第五、被告人芝田は、被告人高木より前記第一の一記載の日時、場所において同記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知悉しながら同記載の現金五万円の供与を受け、もつて自己の前記職務に関して収賄し、

第六、被告人田中作太夫は、被告人高木、同芝田の両名より前記第二の一記載の日時、場所において同記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知悉しながら、同記載の現金五万円の供与を受け、もつて自己の前記職務に関して収賄し、

第七、被告人藤堂は被告人高木より、

一、前記第一の二の1記載の日時、場所において、同記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知悉しながら同記載の現金五万円の供与の供与を受け、

二、前記第一の二の2記載の日時、場所において、同記載の請託を受けその報酬として供与されるものであることの情を知悉しながら同記載の現金三万円の供与を受け、

もつて自己の前記職務に関して収賄し、

第八、被告人田中傳は、

一、被告人高木より前記第一の三記載の日時、場所において同記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知悉しながら同記載の現金五万円の供与を受け、

二、被告人高木、同藤野の両名より前記第二の二の1記載の日時、場所において同記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知悉しながら同記載の現金五万円の供与を受け、

もつて自己の前記職務に関して収賄し、

第九、被告人杉本は、

一、被告人高木より前記第一の四記載の日時、場所において同記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知悉しながら同記載の現金五万円の供与を受け、

二、被告人高木、同藤野の両名より前記第二の二の2記載の日時、場所において同記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知悉しながら同記載の現金五万円の供与を受け、

三、被告人増永、同多田の両名より、前記第四記載の日時、場所において同記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知悉しながら同記載の現金五万円の供与を受け、

もつて自己の前記職務に関して収賄し、

第一〇、被告人多田は被告人増永より前記第三の二記載の日時、場所において同記載の請託を受け、その報酬として供与されるものであることの情を知悉しながら同記載の現金五万円の供与を受け、もつて自己の前記職務に関して収賄し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

一、判示各事実を法律に照らすと

1、被告人高木の判示第一・第二の各所為はいずれも刑法一九八条一項(一九七条一項後段)・罰金等臨時措置法三条に、その中判示第二の各所為は更に刑法六〇条に該当するので、各所定刑中懲役刑を選択し、右は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文・一〇条により犯情の最も重い判示第二の二の2の刑に併合加重した刑期範囲内で、

2、被告人増永の判示第三・四の各所為はいずれも刑法一九八条一項(一九七条一項後段)・罰金等臨時措置法三条に、判示第四の所為は更に刑法六〇条に該当するので各所定刑中懲役刑を選択し、右は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文・一〇条により犯情の最も重い判示第三の二の罪の刑に併合加重した刑期範囲内で、

3、被告人芝田の判示第二の一・被告人多田の判示第四の各所為はそれぞれ刑法一九八条一項(一九七条一項後段)・罰金等臨時措置法三条・刑法六〇条(各懲役刑選択)に、被告人芝田の判示第五・被告人多田の判示第一〇の各所為はそれぞれ一九七条一項後段に各該当し、被告人芝田の判示第二の一・第五・被告人多田の判示第四・第一〇の各所為はそれぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文・一〇条により被告人芝田につき犯情の重いと認められる判示第五の罪の刑に、被告人多田につき犯情の重いと認められる判示第一〇の罪の刑につきそれぞれ併合加重した刑期範囲内で、

4、被告人田中作太夫の判示第六の所為は刑法一九七条一項後段に該当するので所定刑期範囲内で、

5、被告人藤堂の判示第七の一・二の各所為・被告人田中傳の判示第八の一・二の各所為・被告人杉本の判示第九の一・二・三の各所為はいずれも刑法一九七条一項後段に各該当し、同被告人等の各所為はそれぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文・一〇条により被告人藤堂につき犯情の重いと認められる判示第七の一の罪の刑に、被告人田中傳につき犯情の重いと認められる第八の二の罪の刑に、被告人杉本につき最も犯情の重いと認められる判示第九の二の罪の刑にそれぞれ併合加重した刑期範囲内で、

6、被告人藤野の判示第二の二の各所為は刑法一九八条一項(一九七条一項後段)・罰金等臨時措置法三条・刑法六〇条に各該当するので、何れも所定刑中懲役刑を選択し、右は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文・一〇条により犯情の重い判示第二の二の2の罪の刑に併合加重した刑期範囲内で

各被告人をそれぞれ主文第二項掲記の懲役刑に処することとし、

二、情状により刑法二五条一項を適用して各被告人に対し主文第三項掲記のとおり、それぞれその懲役刑の執行を猶予することとし、

三、被告人藤堂・同田中傳・同杉本・同多田が判示各犯行により収受した賄賂および被告人高木が判示第一の一の犯行(収賄者被告人芝田)・判示第二の一の犯行(収賄者被告人田中作太夫)によりそれぞれ供与した後各収賄者等から返還をうけた賄賂はいずれも没収することができないので、刑法一九七条の五後段により主文第四項掲記の通りそれぞれその価額を当該被告人から各追徴することとし、

四、原審並びに当審における訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により主文第五項掲記のとおり各当該被告人に負担させることとする。

(公訴事実中一部無罪)

本件公訴事実中被告人芝田は被告人増永より昭和四一年六月上旬頃福井市東宝永町二の一一五福井県議会議長公舎において昭和四一年六月二八日に行われた福井県議会副議長選挙に際し自己に投票されたい旨の請託を受けその報酬として供与されるものであることの情を知悉しながら現金五万円の供与を受けた旨の公訴事実は、審理の結果によると同公訴事実にある日時場所で被告人芝田が被告人増永から現金五万円の手交を受けたことは明らかであるが、被告人芝田において同金員を受領する意思があつたと認めるに足りる証拠がなく、右公訴事実は犯罪の証明がないことに帰するので、刑訴法三三六条により同被告人に対し同公訴事実について主文第六項のとおり無罪の言渡をすることとする。

よつて主文のとおり判決する。

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